小田実の涙
[The REK Friday Blog]
NHKBS「小田実“遺す言葉”」を見た。小田は病床でインタビューに答える。「自由と民主主義はアメリカから学んだ。日本はそれに平和主義を加えた。9条は革命的な考えだ。しかし、日本は富国強兵に向かっている」
そこまでいうと、小田は言葉に詰まった。何かにむせたわけではない。涙すら浮かべていた。
“私が力を尽くしてきた運動は無なのか”、そんな気持が胸に押し寄せたのだろうか。あるいは、道半ばにして倒れたと無念極まりなかったか。
この番組は3月にも地上波で放映される。小田実の涙を確認してほしい。
NHKBS「小田実“遺す言葉”」を見た。小田は病床でインタビューに答える。「自由と民主主義はアメリカから学んだ。日本はそれに平和主義を加えた。9条は革命的な考えだ。しかし、日本は富国強兵に向かっている」
そこまでいうと、小田は言葉に詰まった。何かにむせたわけではない。涙すら浮かべていた。
“私が力を尽くしてきた運動は無なのか”、そんな気持が胸に押し寄せたのだろうか。あるいは、道半ばにして倒れたと無念極まりなかったか。
この番組は3月にも地上波で放映される。小田実の涙を確認してほしい。
小田実が危惧する“強兵”は誰にでも分かる。まるまると太った自衛隊だ。では、“富国”とは何か。言葉に詰まったあと再び“富国強兵”といっているが、小田はそれを説明していない。恐らく日本企業の海外経済進出だろう。進出は容易に侵略に転化する。
そうだとしたら、強兵は民意で歯止めをかける可能性はあるが、一方の富国は民意でどうにかなるというものだろうか。
マルクス主義者ではなくとも、資本主義は海外を目指す論理を内包していると考える。その実現が今のグローバリズムではないのか。
「朝日」朝刊の「耕論」で加藤周一は相手の上野千鶴子に次のように言う。
「資本主義はそもそも無限に拡大していく性格をもっていて、途中で止めるメカニズムがない。
市場も生産もその中に組み込まれている。
現在は資本主義の中心がアメリカだから、アメリカ的なものがグローバリゼーションに乗っている」
小田はこのようなことを百も承知だろう。しかし、小田実は原理を語らない。原理とは“成り立ち”であり、論理とは“筋道”だ。従って、原理を変えることはできない。その代わり、筋道で現象を変える。それが小田のやりかただ。
経済進出をやめさせることはできないが、それによってアジアの人々がいかに苦しんでいるかを訴え、“経済侵略”をやめさせる。小田はその道半ばにいたに違いない。
病床についてから、小田は今まで使っていた“普通の市民”ということばを“小さな人間”に言い換えたという。“大きな人間”が犯した過ちを“小さな人間”が変える。ギリシアのデモクラシーについて考えながら思いついたそうだ。
ここで、“大きな人間”とは誰か。世の中を動かしている、政治家や、高級官僚、大企業家、それに科学者も入るかもしれない。小さい・大きいと対比させることによって、“現象を変える”というイメージを明確にしたかったのか。小田の語る言葉からは、“小さい人間”が世直しの筋道をはっきりさせたと感じることは私にはできなかった。
私は小田が世界を旅しながら、「“普通の市民”が存在しない国」を再認識したのではないかと思う。以下が私の推察だ。
“普通の市民”とは政治に参加する手段が“選挙”である人々。タリバンや武装グループは市民を殺害するから“普通の市民”ではない。世の中がそのように移った。
そこで、武力を柱とする力を保持・管理する人々を“大きい人間”、それ以外を“小さい人間“と規定した。
ここでも小田は、ブッシュとタリバンの対立という原理を語らない。大きい人間同士の殺し合いを小さい人間が止めさせる方法を考える。その筋道の出発点は9条だ。9条が革命的という所以だが、そのあとにはまだ有効な道はない。
あるいは、震災で潰された文字通り小さい人間がイメージを喚起したのだろうか。
私は昨年の神奈川9条の会の印象を「9条“後衛”の論理」として書いた。このインタビューで小田もまた9条の力を強調するあまり、“後衛の論理”を語っているのには驚いた。「戦後、日本は9条のおかげで軍需産業が産業の中心になってこなかった」。
これに対して、前衛・中衛は科学技術・生産技術の軍事的転用で日本の軍需産業はアメリカの軍隊に貢献してきたと反論するだろう。私も戦後日本の歩みを9条と絡めて評価しない。
しかし、そんなことは誰も否定しないと、小田は軍需産業が中心になってこなかった事実から出発する。9条が実際にそのような力を持ったという事実が重要だというに違いない。
ところで、私は小田実を追悼した「身の丈の人」http://rek320.blog53.fc2.com/blog-entry-118.htmlの中で、小田は自分の死に方について何も考えなかったのかと書いた。小田は笑っていたよ。「世界のあれこれを考えているので、死生観を考える暇はない」と。
なるほど、これはこれで小田実だ。
もう一つ、53才のとき韓国人の妻との間に一人娘をもうけているが、私はこれほど美しい名前を聞いたことがない。彼女の名は「小田なら」。ナラはくにの意。奈良にも通じる。
コメント
こんにちは。ハイビジョンで放送されたのを知っていましたが、見れませんでした。
地上波でいつ放映されるのか、ご存じでしたら教えてください。
3月9日(日)夜10時NHK教育テレビです。
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