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2010-01-22

シリーズ第3弾 君はジョージ・ワシントンの原子炉を知っているか

[The REK Friday Blog]
 Kくん、原子力空母ジョージ・ワシントンは同じ原子炉を二つ積んでいるんだ。大きな原子炉一つより空間的な場所を取らないという理由だろうね。出力は二つで原発の一つ分だという。原発は発電機を回して電気を起こすのだが、空母は蒸気タービンを使ってスクリューを動かすのだよ。
 原子力資料情報室のスタッフが2年ほど前、米横須賀基地の浚渫差止裁判に意見書を提出したのだが、今はそれを参考にして書いている。
 シリーズ第1弾で、「米海軍が安全性の根拠とすることが、逆に危険性の根拠になった」と書いたが、その危険性の根拠だ。

 空母に積むから原子炉をコンパクトにする、これが設計上の最大のポイントだっただろうね。そこからさまざまな無理が生まれる。米軍は母港配備に際して出したファクトシートで、すべての部分が何重にも保護されているから安全だといっている。中身も明かさないで何がファクトシートだろうね。

 コンパクト設計の第1はウランという燃料の使い方だ。原発と比較すると、難解な用語でも分かりやすいかな。原発ではウラン235を4%に濃縮した酸化物として燃料に使っている。
 一方、ジョージ・ワシントンではウラン235を97%に濃縮して酸化物を作り、ジルコニウムという合金に埋め込んで使っているんだ。

 圧倒的に高い濃縮度。これが原子炉の出力コントロールを難しくさせるようだ。
「軍艦としての任務を支えるため、海軍の原子炉は、推進のニーズに応じた出力レベルの迅速な切り替えを可能にしている」とファクトシートでは誇らしげに書かれている。
 原子力空母は通常時には定格出力の15%で運転しているのだが、戦闘時などの緊急時には1分くらいの短い時間で100%まで出力を上昇させることができるというのだね。

 原子炉の出力をこのように急激に変化させる運転は、原子炉容器に大きな衝撃をもたらし材質の劣化が進む。この強度上の問題は素人でも分かりやすい。
 さらに、このとき出力コントロールに失敗したらどうなる。出力が急上昇するとき、この制御に失敗したのがチェルノブイリ原発だった。そこまでいかなくても、出力が異常に上がったら、少なくとも燃料棒が破損し放射能放出という事態が考えられるという。

(戦闘時には遠い海上にいるのだろうっていうかい。基地でテロ攻撃を受ける可能性も否定できないんじゃないか。乗っ取り航空機が自爆的に突っ込んでくるかもしれないとの指摘もある)

 また、原子炉容器が小さいと中性子密度が高い。つまり中性子がいっぱい詰まっているということだ。ウランが核分裂を起こすとき中性子が放出されるのだが、中性子の照射密度も高くなる。炉の壁にたくさん当たるということだね。すると炉壁が脆くなっていくという。

「海軍の原子炉は、通常、最大出力では稼働しない。就役期間を通じた原子力空母の原子炉の平均的な出力レベルは、最大出力の15%以下である。これに対して、商業炉は、通常、最大出力に近いレベルで稼働している」
 このように安全だとファクトシートには書かれているんだが、低出力で長期に運転すると、やはり中性子の照射密度が高くなって、炉壁を脆くさせる傾向もあるそうだ。

 さて、次はもう今は馴染みだね。冷却水の問題だ。原子炉の運転中に燃料の冷却が行えなかったのがスリーマイル島の原発だった。
 空母では次のようになる。冷却が十分でないと燃料の温度が上がりつづけ、燃料を覆っている管がボロボロになる。すると管のジルコニウム合金という材料と水が反応して大量の水素ガスを発生、爆発する危険性もということだ。
 同時に燃料も溶け出して放射能が放出されるというわけだね。

 空母が港に停泊しているときのように、原子炉は運転を停止したあとでも崩壊熱を出し続ける。だから冷却しなければならない。これができないと燃料の温度が上がって上記の事態になってしまうのだよ。

 原子炉を冷却できない原因としては、やはり地震を想定してみよう。
 まずは津波。関東大震災では、津波の前に大きな引き潮が発生した。そのような事態では、冷却水そのものが海から取り入れられなくなる。

 津波が襲わなくても、地震で陸上の発電所が動かなくなったら冷却水を回すことができない。ジョージ・ワシントンには非常用の発電機が積まれているが、最大でも数日間の運転しか見込めないそうだ。

 岸壁近くに設置されたガス発電所は米軍の予算で工事をしたから、耐震性を調べようにも資料がまったく明らかにされていない。
 思いやり予算で工事した浚渫では、差し止めを求める裁判を起こしたが、すでに工事が終わってしまっているので、いまは浚渫を埋め戻せという裁判をしている。横須賀ではなかなかしつこく裁判もしているんだ。

 先日その裁判の報告集会で、私は証人に立った原子力資料情報室のスタッフに「岸壁の発電所建設にはどのような地盤工事をすべきだったか」と質問した。そしたら「埋立地だからまったく建設を勧めない」という返事だったよ。

 Kくん、最大被害想定だ。ある気象条件を設定する。
「風速4M、大気安定度は一般的なD、天候は降雨なし、放出された放射能の広がり角度は風向きに対して15度」

 結果は「空母から8キロの範囲で全数致死、京浜急行の沿線で言えば田浦近辺だ。放射能放出開始からわずか33分。13キロ離れた地点で半数致死、沿線では杉田あたりでもうそこは横浜だね。60キロで急性障害を起こす。神奈川県を越えて東京とさいたま市の一部、それに房総半島の大半」に及ぶという。

 3回にわたって原子力空母ジョージ・ワシントンの実像・虚像を書いてきた。動力は何であれ、空母は在日米軍の象徴的存在だと思う。これを何とか追い出して神奈川から沖縄から、全国の基地のある町から「いらない!米軍基地」をまっとうできたらいい。番外編ではその辺を書いてみようかな。

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