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2010-03-05

原子力空母修理のまやかし

[The REK Friday Blog]
「原子力空母の定期修理を検証する市民シンポジウム」が2月20日に開かれた。原子力空母ジョージ・ワシントンの横須賀配備に関する日米政府の覚書と問題点については、1月に3回にわたって書いた(最下段参照)が、このシンポジウムで新たな問題点も出てきた。
 いまジョージ・ワシントンは昨年の定期修理に続いて今年もまた定期修理を行っている。米本国に配備されている原子力空母は2年に1回の6ヶ月修理を行っているが、横須賀へ前線配備されているジョージ・ワシントンでは毎年行われる。
 去年は4ヶ月の修理期間だったので、今年も恐らく同じだと予想されている。というのも、米海軍は終了時期を明らかにしていないからだ。

 なぜ明らかにしないのか。今回のシンポジウムで、在日米軍基地の動向を監視する市民団体「リムピース」のホームページ担当者は「いつまでやるという発想ではなくて、今度いつどこに出るか、いつ艦船を出すかという観点からメンテナンスの期間が決まってくる」と語った。それが米国から離れて前線に近いところにいる空母の定めであり、繰り返し修理をやりながら出撃に備えるというのだ。

 車検のようにいくつかの項目を点検修理しないと路上に出られないというのではない。戦場からお呼びが掛かったらすぐに出る。だから半分しか修理が終わっていなくても残りのいくつかは海上で行うこともあるという。

 どんな修理を行っているのか。横須賀基地には日本人技術者で構成されている艦船修理部がある。彼らはジョージ・ワシントンの甲板で飛行機を射出する装置や着艦させる装置を修理する。米軍から優秀だという評判を得ているらしい。
 ところが、ジョージ・ワシントンのメンテナンスのためにアメリカの造船所から650名の技術者が来る。彼らは何をするのか。日本人の艦船修理部では立ち入りできない区域で作業するからだ。
 その区域とは当然、原子炉部門ということになる。米司令官は「機密保持のための特別管理区域」と説明している。

 原子炉部門、つまり原子炉からスクリューまでの原子炉周辺修理は日本では行わないというのが米海軍が日本政府と交わした約束だ。しかし、ジョージ・ワシントン横須賀配備に当たって米海軍は原子炉の修理は行わないと、“原子炉だけ”を但し書きするように上書きした。
 原子炉周辺修理を行わないと言っていたら、わざわざアメリカ本国まで戻らなければならないからだ。それでは横須賀母港という前線配備の意味がない。

 核密約と似ているといわれるゆえんだ。核問題では、核を降ろして日本の港に入ることはありえない。積んだままのほうがよほど安全だからだ。ところが日本人には非核3原則という規範が根強くある。そこで、日本国民向けには核を積んで入港することはないと繕う。
 原子力空母の修理も、放射性物質を扱う修理はしないと、日本人の規範を意識して約束したが、そうしていたら海外に母港として展開する意味がないから、そっと原子炉の修理だけはしないと繕うのだね。

 日本人従業員が立ち入れない「特別管理区域」といっても、厳重な扉で閉ざされているわけではないようだ。なぜならその区域は作業の進捗によって日々変わるからだ。だから日本人がまごついて立ち入ってしまうこともあった。こっぴどく叱られたようだが。
 叱られるだけならいいが、放射能を浴びたらどうなのだろう。艦内ならどこでも被曝の危険はあるのではないだろうか。全駐労によれば彼らはどのくらい被曝したかを計る線量計を携帯していない。

 このシンポジウムで原子力資料情報室のスタッフが、原発の修理の場合に被曝を測定した記録がないので労災認定を受けられなかったという事例をあげた。
 横須賀基地の従業員も同じような目にあわないためにも線量計の携帯は必須だ。それを米海軍は認めていない。また放射能事故に関わらず火災を含むすべての避難訓練が基地従業員を対象に行われていない。
 理由はすべて、原子力空母は安全だから事故を想定していないというのだから、治外法権というよりもはや植民地太守感覚だ。

 いづれにしても米海軍からみれば普通に修理を行っているのだが、1963年にエード・メモワールという文書で明記した「動力装置の修理は行わない」という日本に対する約束があるから、あれこれ言葉をいじって日本の市民を目くらましにしようというのだね。それに外務省は加担する。

 米海軍の原潜が初めて日本に寄港してからほぼ半世紀が経つ。上記の約束はそのときのものだ。米軍もまさか約半世紀後のいま、原子力空母が日本を母港とするなんて予想だにしなかっただろう。それを許したのはまぎれもなく日本国民だ。
 アメリカの議会ではすべての軍艦の原子力化を検討しているという。一番大きな理由は燃料の費用とのこと。横須賀には空母以外に10隻の軍艦が母港として、太平洋からインド洋まで前方展開している。その10隻が原子力軍艦になったら、東京湾は原子炉だらけだ。

 そんなバカなことは起こりえようがないと笑っているうちに、半世紀後には実現していないと誰が断言できよう。

「ジョージ・ワシントンの動力装置の修理を行わないという約束に戻せば、横須賀で定期修理は行えない。そうなると横須賀配備の意味がない。だからこの約束問題は母港配備を左右する大きなテーマだ」とパネリストの一人は強調した。


君はエード・メモワールを知っているか
君はジョージ・ワシントンのメンテナンスを知っているか
君はジョージ・ワシントンの原子炉を知っているか

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